赤ちゃんを抱っこするたびに、手首の親指側にズキッと痛みが走る——産後にこの症状を訴える方は、決して少なくありません。
「抱っこのしすぎかな」と我慢してしまいがちですが、この痛みの多くはドケルバン病(de Quervain病)と呼ばれる腱鞘炎で、放置すると悪化することがあります。
一方で、正しく対処すれば、多くは手術に至らず改善が期待できることも分かっています。
理学療法士として、この記事では産後の手首の腱鞘炎について、原因・見分け方・エビデンスに基づく対処法を整理します。
痛みを「気合いで乗り切る」のではなく、根拠をもってケアするための内容です。
✨ この記事の重要ポイント
- 産後の手首痛の多くは「ドケルバン病」。ホルモン変化と抱っこ・授乳の反復負荷が重なって起こる
- 第一選択は保存療法(安静・親指の固定・消炎)。多くは保存療法で改善が報告されている
- セルフケアで改善しない・強い痛みは早めに整形外科へ。授乳中の薬の使用は医師に相談を
⚠️ 医療免責事項(必ずお読みください)
本記事は、産後の手首の痛みに関する一般的な情報を、理学療法士の視点で解説するものです。診断・治療を目的としたものではありません。
痛みの原因はドケルバン病以外の場合もあり、自己判断は禁物です。強い痛みやしびれ、腫れがある場合は、必ず整形外科を受診してください。また、授乳中の薬(消炎鎮痛剤など)の使用は、必ず医師・薬剤師に相談してください。
産後の手首痛は「ドケルバン病」を疑い、早めに手を休める
先に結論をお伝えします。
産後に、親指側の手首(手首の外側)が痛む場合、ドケルバン病(母指を動かす腱の腱鞘炎)である可能性が高いと考えられます。
この痛みは、産後のホルモン変化に、抱っこや授乳での手首の反復使用が加わって生じるとされています。
そして重要なのは、保存療法(安静・固定・消炎)で改善するケースが多いと報告されていることです。
「使い続ければそのうち慣れる」ものではなく、むしろ使い続けると悪化しうるため、早めに負担を減らすことが回復への近道です。理由を順に解説します。
なぜ産後に腱鞘炎(ドケルバン病)が起こるのか
ドケルバン病は、親指を動かす2本の腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)と、それを包む腱鞘に炎症が起こる状態です。
産後に多い理由は、大きく2つの要因が重なるためと考えられています。
- ホルモン変化による影響:妊娠・産後のホルモン変化が、むくみ(体液貯留)や腱・靭帯の状態に影響するとされる
- 抱っこ・授乳による反復負荷:赤ちゃんの頭を支える際に手首を親指側へ反らせる動作や、授乳時の不自然な手首の角度が、腱に繰り返しストレスをかける
特に、慣れない抱っこで親指と手首を「L字」に開いて頭を支える持ち方は、腱への負担が大きくなりがちです。
つまりドケルバン病は、「新米の親が頑張っている証」とも言える、極めて起こりやすい状態なのです。
自分でできる見分け方(フィンケルシュタインテスト)
ドケルバン病の簡易的なチェック方法として、フィンケルシュタインテストが知られています。
やり方は次のとおりです。
- 親指を内側に折り込み、他の4本指で握る(親指を握りこむ)
- そのこぶしを、小指側にゆっくり傾ける(手首を小指方向へ曲げる)
このとき、手首の親指側に強い痛みが出れば、ドケルバン病が疑われます。
ただし、これはあくまで目安です。痛みが強い場合は無理に行わず、確定診断は整形外科に委ねてください。
対処法
ここからは、研究で効果が示されている対処法を紹介します。
1. 安静|まず「手を休める」ことが最優先
最も基本かつ重要なのが、原因となっている手首の反復動作を減らすことです。
炎症が起きている腱を休ませなければ、他の対処をしても改善しにくくなります。
抱っこの持ち方を工夫し(後述)、痛む動作を意識的に避けることが第一歩です。
2. 親指・手首の固定(スプリント・サポーター)
親指を固定する装具(サムスパイカ・スプリント)は、腱の安静を保つのに有効とされています。
海外の報告では、保存療法(安静・固定・消炎)により、多くの授乳中の母親が比較的短期間で改善したとされ、手術を要したのはごく一部だったという研究もあります(小規模研究を含むため、効果には個人差があります)。
市販の親指用サポーターでも代用できますが、適切な固定方法は医療機関で相談すると確実です。
3. 消炎(アイシング・薬)
炎症に対しては、冷却(アイシング)や消炎鎮痛剤が用いられます。
ただし、授乳中の内服薬・外用薬は自己判断せず、必ず医師・薬剤師に相談してください。使用できる薬や剤形に配慮が必要です。
4. 改善しなければ専門的治療へ
保存療法で改善しない場合、医療機関ではステロイドの局所注射などが検討されることがあります。
セルフケアで軽快しない、痛みが強い、日常生活に支障が出ている場合は、我慢せず整形外科を受診しましょう。
手首を守る抱っこの工夫|理学療法士のアドバイス
痛みを繰り返さないために、日常の抱っこ動作を見直すことが重要です。
理学療法士の視点から、手首への負担を減らす工夫を紹介します。
- 手首だけでなく「腕全体・体幹」で支える:赤ちゃんの重みを手首の一点で受けず、前腕や体に乗せるように抱く
- 親指を反らせすぎない:親指と手首をL字に開いて頭を支える持ち方を避け、手のひら全体で支える
- 抱っこ紐を積極的に使う:手首や腕の負担を大きく減らせる。長時間の抱っこは道具に頼る
- 左右を交互に使う:いつも同じ側で抱く癖をなくし、片側への負担集中を防ぐ
こうした小さな工夫の積み重ねが、腱への反復ストレスを減らします。
まとめ|「痛みは我慢しない」が回復への最短ルート
産後の親指側の手首痛は、ドケルバン病(腱鞘炎)である可能性が高く、ホルモン変化と抱っこ・授乳の反復負荷が原因と考えられます。第一選択は保存療法(安静・固定・消炎)で、多くは改善が期待できます。
最も大切なのは、「使い続ければ慣れる」という考えを捨て、早めに手を休めることです。セルフケアで改善しない場合は、我慢せず整形外科へ。
産後の体は手首だけでなく、腰や骨盤にも大きな負担がかかっています。産後の体全体の変化と過ごし方は、こちらで解説しています。
→ 退院後の産後の体はどう変化する?時期別の過ごし方を理学療法士が解説
抱っこによる負担は、腰痛にも直結します。産後の腰痛ケアもあわせてご覧ください。
→ 産後の腰痛ケア

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